2013年12月31日火曜日

「名著で読む世界史」渡部昇一

紀元前から、第2次世界大戦前までの世界史を知るための「名著」が紹介されている。ある程度の歴史の知識がないとついていくのにハードルが高いと思われる(私にもハードルが高かった…)。
日本人の著作としては、本人の著作の他に「ローマ人の物語」(塩野七生著)が紹介されている。


「偏頗(へんぱ)な歴史家」という表現がでてくる。(恥ずかしながら、「偏頗」という言葉の存在を知りませんでした。)歴史を記述する上では、事実を忠実に記述するだけでは歴史の本質的な部分はわからない。だから、公平で中立な立場ではなく、どれかの立場に肩入れした「偏頗」である必要があると述べている。
ビジネスでも「ストーリー」で語る重要性が注目されている。歴史も、何らかの「立場」で語られたほうが、その当時の人間の情動を理解できるのだろう。だから偏頗な歴史家の著作として、「イングランド史」(マコーリー著)は面白いと述べている。


第2次世界大戦での敗戦後の軍事裁判では、裁いたほうが行き過ぎでなかったか?といったことが著者の考えとして述べられている部分がある。理由の一つとしては、アメリカに対しては「アメリカは中世がなかったから騎士道がない。(=だから戦争でやられた分に対しては情け容赦なく報復するような宗教戦争の様相を呈する)」と述べている。
「中世がなかった」ことは、紹介されている「アメリカ史」(チェスタトン著)の記述と思われる。しかし、「騎士道がない」という指摘は、著者の考え(著者のアメリカ嫌悪の表れ?)であろう。


世界経済をユダヤ人が動かしていることを知る上で、「The Jews」(べロック著)は興味深い。書かれた1922年の時点で、その後のユダヤ人が世界経済を支配することを「予言」した本として位置づけられるということである。


歴史をみるときには古いほうから現代へ向かっていくのがオーソドックスだとすると、世界史を振り返る際には紀元前のかなり前からになる。なじみのない部分から進めていくよりも、見方を変えて、現代から遡ってみていくほうがとっつきやすいかもしれない。

2013年12月28日土曜日

「ノマドと社畜」谷本真由美


「ノマド」はいわずと知れた「ノマドワーカー」のことで、例えば、プロのブロガーがよく知られた例である。彼らはパソコンとネット環境さえあれば、物理的に固定された場所(事務所)とは関係なく、遊牧民のごとくあちこちで仕事ができる。
こうしたノマドが人気となっている風潮に対して、著者は、「現実はそれほど甘いものではない」ことを述べている。

ノマドの基本となるのは、その人のプロとしての技量であり、あちこちで自由に働くという意味で、フリーランサー(自営業)となんら変わりがない指摘はもっともである。で、その世界は例えるならば宮大工や畳職人の世界と述べている。いわゆる「職人」である。

ノマドになりたい人がやるべきこととして、以下の4点が挙げられている。

  1. 実際にフリーランサーとして5年や10年働いているひとに話を聞いて実態を知る
  2. フリーランサーとして必要なスキルや技能を探して身につける
  3. フリーランサーとして働くための基礎知識を身につける
  4. 英語を身につける

「4.英語を身につける」ことを勧める理由(自分を差別化できる.サービスや商品を世界中に売り込むことができる.日本以外で働ける.)を挙げているが、これらの理由はいまさら言われるまでもないだろう。それだけ読者のレベルが低いと考えているのだろうか?あるいは著者がこれらの英語を身につける理由を説明しないとならないレベルの若者と接してきた経験からだろうか。


ノマドあるいはフリーランサーで生きて行く世界は、実力勝負の厳しい世界である。しかも、地球上のどこであっても闘える能力が必要である。以前に紹介した「10年後に食える仕事食えない仕事」の分類のなかの「無国籍ジャングル」と同じだ。

「社畜」については、特に日本特有の雇用形態と欧米(ここでは著者の詳しい英国の状況)と比較し、ノマドの対極にあるものとして挙げている。日本企業では、通常は職務の範囲の細かい契約がない(少なくとも自分の勤務先ではないし、大多数がそうだと思う)。だから、付き合いで残業したり、人の仕事を手伝うことが暗黙のうちに要求されたりし、なんとなく頑張ることが評価されていたりする。もちろん、こうした業務範囲の「あいまいさ」が、過去の日本経済の発展を支えてきたことも否めない。ただし、終身雇用や年功序列といった旧来の制度があったからこそ成り立っていたと思われる。
本書でも「ノマド的な社畜であれ」と言われるように、仮に現在が社畜的なサラリーマンであっても、いつでもノマドとして飛び出していける準備をするのは現実的な対応であろう。ブラック企業ではまずいが、会社で無茶苦茶なことがあったとしても、それで安い給料しかもらえないと考えずに、お金をもらって貴重な経験を得ているいう見方もできる。また、やり方によっては上述した「ノマドになりたい人がやるべきこと」の4つのうちの3つぐらいは社畜としてもできるかもしれない。

2013年12月22日日曜日

"Unbroken Connection" Angela Morrison

以前に読んだ小説(Taken by Storm)の続編です。

「続編」のよい点は、同じ登場人物に関しては、それらの情報が既に把握されているので内容を追いやすい点でしょう。

Michaelはタイでダイビングインストラクターとして働き、Leesieはアメリカで大学へ進学し離ればなれとなった2人の関係を追った展開となっています。
Michaelがタイでの浮気の嫌疑をかけられるのですが、その証拠としてLeesieから言われたのが、第3者のブログに書かれた内容と写真である点は、ネットの時代だからこそ起こりうる展開でしょう。その人物が"blogospherically huge"だったから世間にバレバレも同然だったのかと。
ネットの時代となり、物理的に離れていても気楽に連絡がとれる状況は、明らかに現代モノの小説の構成に影響を与えているでしょう。さらに、ネット時代の特徴として、個人の情報を瞬く間に世界へ発信できることも挙げられます。

Leesieが自動車事故に巻き込まれ、一命を取りとめ、さらにそこから話が展開することを示唆しておしまいとなってます。事故後の入院の描写がかなり詳しいと思ったら、どうやら、著者の実体験を元となっているみたいです。あとがきに書いてました。

カテゴリーとしては恋愛ものですが、ストーリーとしてはちょっと重い気がします。


‐‐‐単語、表現メモ‐‐‐
([ ]内のNoはキンドルでのページ)
■She jabs a finger into my chest.[3045]
「人差し指で激しくこづく」 相手を激しく非難するしぐさ。

■I take in the scene.[3621]
ここでは「見物に行く」の意味でしょう。他の意味もあります。 

■Who knew she was blogospherically huge? Thousands and thousands of followers?[3823]
blogosphere(ブログ圏)とは、全てのブログとそのつながりを包含する総称であるとのこと。blog+sphereの造語。余談ですが、ネットワークの住民はnetizen(network+citizen)ですね。

2013年12月15日日曜日

「オンライン英会話の教科書」 嬉野克也

 「スカイプ英会話」に関して、あまり多くを語る必要もないと思います。
ただ、これから始めてみたいと思う人でやり方がよくわからない人にとって役立つ情報が本書の7割程度をしめています。
「英会話トークスクリプト」として、こんな時はこう言えばよいという文例が紹介されてます。決まり切った言い方なので、スカイプ英会話を始めることに抵抗のある人には役立つでしょう。
 単に授業を流すのではなく、有効に活用するために、レッスンで学んだ単語や表現を使って自分のシチュエーションに置き換えて英作文し、それを暗誦する方法を挙げています。ポイントは、「自分のシチュエーションに置き換えて」という点でしょう。で、そのシチュエーションを定義するのは、英語学習の「目標」だと考えられます。


「目標設定」の重要に関しては、本書全体で触れられています。
長期の目標を設定して、それに向かって、中期、短期の目標を設定することは冒頭に述べられてます。この点は英語学習のみならず、何かをやる際の普遍的なやり方と言えるでしょうが。

カジュアルな話し方とするのかビジネスに使うフォーマルな話し方とするのか、目標によって違ってくきます。ビジネスで英語を使うことを想定しているならば、最初からそれに合った話し方で学習しようと述べています。固い言い方もフランクな言い方も使い分けることができるのが理想ですが、上級者レベルでしょうね。

スカイプのレッスンで、それぞれのレッスンでも、目標を決めておくのが単に流されないためのポイントだとも述べています。


 英語での独り言や、妄想英会話が、ネットに頼らなくてもどこでもできる方法として紹介されています。目に映るものを英語で表現するトレーニング法は、私の記憶が正しければ、大前研一氏がすでに紹介していたと思います。例えば通勤電車で車窓から見える景色、あるいは中吊りの内容を、英語で片っ端から表現してみる(=その度に頭のなかでつぶやく)英語学習法です。


単なる「英語学習法マニア」になっては本末転倒ですが、「英語学習法」を知る上では面白い本だと思います。

2013年12月8日日曜日

「1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?」 山本 梁介 

以前にスーパーホテルのことを書きました。
「スーパーホテル」に滞在して、人件費のことを考える
そこの会長の本をようやく読みました。

成功の秘訣は、別の言葉で表現すれば「選択と集中」ですね。
「100人の客のうち1人しか困らないようなサービスは切り捨てる」考えから、部屋に電話がないとか、冷蔵庫が空とかにしているみたいです。だからこそ、低料金を実現しているのだと。


マニュアルに基づいたサービスを超越した満足を提供するという企業理念は、ホテルが単に「宿泊する場所」を提供する場ではないことを意味していると思います。ホテルのようなサービス業であれば、人間である客と直接向き合うので、「マニュアル」だけでの対応に限界があるのは容易に想像できます。(対照的に、単純な製造現場であれば、マニュアルでカバーできる範囲は広くなるでしょう。)

マニュアルを超えたところに対応するためには、感性と人間性が重要であるとの考えから、スタッフの「自分磨き」を支援している点は独自であると感じました。読書を推奨しており、読書レポートのを提出すれば書籍代が支給される制度があるようです。ホテルに来て最初に接するのはフロントですから、従業員の品位はホテルの品質のひとつとして重要でしょう。しかも、品位は一朝一夕で上げられるようなものではないです。


スーパーホテルのことの他に、本人のこれまでのビジネスの成功と失敗や、逸話が語られています。そこで触れられている「先義後利」の思想は、ビジネス書ではよく語られていますが、それを端的に表現した著者の父親の言葉はうまいと思いました。
「泥棒はなあ、金を盗もうとするから人から逃げられる。それなのに、お坊さんは托鉢で歩いているだけで、人がお金をくれる。人として正しいことをしていれば、お金は自然についてくるということや」
違う口から同じような言葉が語られるということは、商売における真理(=利益を優先して人の道をふみはずしてはならないし、そんなやり方は成功しない)が語られている証でしょう。

"Taken by Storm" Angela Morrison

kindleで読んだペーパーバックスについてです。キンドルでは、わからない単語をタッチするとそのまま英和辞書で意味を参照できるのですが、読む速度が遅くなってしまします。なので、最近では、わからない単語はいったんハイライトにしておいて後で意味を調べる方式にしています。短所としては内容がざっくりとしかわからない点でしょうか。でも、読むリズムはよくなります。

主人公のMichealは悪天候の際のダイビングで両親を失います。そこから生き残った彼は、トラウマを引きずりつつも、ガールフレンドのLeesieとの関係性を進めていくのですが・・・といったあらすじです(このあらすじの記述の正確性は保証できませんがw。)LeesieはMichealのキスのテクにハマります。そのあたりの描写が若干大人向けですが、おおよそ健全な内容です。

この小説の面白い点は、その構成にあります。話の流れの基本はDivelog(潜水の記録)のコメントとして、日記風に語られています。そのDivelogの合間に、チャットのログが挿入されています。小説といえども、個人の日記とチャットのログを読むような構成です。口語的な表現を学ぶにはよい教材ではないかと思います。

Michealはタイへ渡ってダイビングインストラクターの仕事に就き、Leesieは大学へ進学するところで話は終わります。続編(Unbroken Connection)が出ているので、引き続きそちらを読む予定です。



‐‐‐単語、表現メモ‐‐‐
([ ]内のNoはキンドルでのページ)
■Toast:大変な難局にある人
If you bring it up, you're toast. Try to get him to talk, though. [No.786]
自然に訳すると次のような感じですかね。
「そんな話をしたら、あなた大変なことになるわよ。でも彼に話させるようにしてみたら。」

■knot:(胃・のどなどの)締め付けられる感じ
a knot forms in my throat that I can barely speak around[No.1141]

2013年12月1日日曜日

「ジャングルで乾杯!」 林美恵子

副題(-医者も結婚も辞めてアマゾンで暮らす-)とあるように、医者を辞めてアマゾンに移り住んだ点が、よくある海外移住(というか逃避)ものとは異なっています。

当初、アマゾンに来てお金もなく、食べるのにも困り、強盗の気持ちがよくわかったとか。熱帯であれば、食には困らないという思い込みが私にはありましたが、意外でした。あるいは、住んでいたのが都市部だったからなのかもしれません。

「お金があるうちに必要なものを買ってしまえ、食べ物がなくなったらその時に考えよう」という、現地の考えはラテン的と言えるでしょう。一方で、ブラジルの場合にはインフレという要素も大きいと思われます。現金の価値がだんだん目減りするのがわかってれば、今、現物にするのは理にかなっています。

現地の人間関係や現地人の考え方への苦労もつづられています。一言で言うと、「お前のは俺のもの、俺のものは俺のもの」と表現できるのではないでしょうか。

日本の生活がいやになって、抜け出したかったのであれば、ブラジルのアマゾンでなくても、東南アジアあたりでよさそうなところが多くありそうです。自宅で夜に強盗に襲われないように見回りが必要だなんて、それって相当「住みにくい」のではないかと感じました。ま、どこに住むかはその人の勝手ですが。

著者は酒好きのようなので、その地を選んだ理由として「お酒」も重要な要素だったかもしれないです。


もはや絶版です。私は図書館で借りました。
1996年初版です。今であれば、ブログで書かれるような内容でしょうね。この後数冊の本が出版されているようですが、最近の著者の消息は、ちょっとネットで検索した限りでは不明です。アマゾンでご健在であるとよいですが…