2014年5月18日日曜日

「「一体感」が会社を潰す」 秋山 進

副題として「異質と一流を排除する〈子ども病〉の正体」とある。著者は、個人、組織文化そしてマネジメントが「コドモ」であるか「オトナ」であるかで区分しており、従来の日本企業に見られた「コドモ」の状態ではダメなのだと言っている。その「コドモ」の組織とは、競争力の源泉は標準化力と同質性にあり、組織は一体感で結ばれており、個人間の関係は摩擦回避の上で成り立っている組織だとしている。それに対する「オトナ」の組織とは、競争力の源泉は専門技術力と異質性にあり、組織はビジョンや理念でつながり、個人間の摩擦が発展の糧になる組織だと特徴付けている。

企業に身を置く場合でも、「専門性の高いところで勝負しろ」といっていることは至極まともではあるのだが、現実的にそんなに能力の高い人はいるのか? 残念ながら、能力に恵まれ努力が報われる「プロフェッショナル」な企業人は一握りしかいないと思う。(誰もがイチローのように大リーグで活躍できるわけではないのです。)
すべての物事にはすべてよい点もあれば悪い点もあり、日向の部分があれば日陰の部分もできる。なので、著者は従来の日本的な企業のあり方を「コドモだ」として批判しているが、物事はそれほど単純化できない、というのが私の率直な感想である。

個人間の摩擦を恐れてはいけないし、その点については「電通鬼十則」からの引用もされている。ただ、摩擦が常にOKかといえば、そうではなく状況によるのではないか。なぜならば、論理の正しさと感情との関係を完全に断ち切ることは不可能だからである。たいてい場合、意見の対立が生じても、「正しさ」だけに基づくのではなく、うまいこと「落としどころ」を見つける能力も必要であるに違いない。他人のことを考えず全く摩擦を恐れる必要のない人間とは、ほんの一握りの卓越した人間だけであろう。

キャリアに対する考え方として、自立軸として、丁稚→一人前→一流、自律軸として、他律→自律→統合律のマトリクスでキャリアの段階をプロットできる方法が示されおり、今後のキャリアを積み重ねていこうと考える人にとっては役立つ本である。


「10年後に食える仕事食えない仕事」 でも書いてあったように、「無国籍ジャングル」で生きていけるのは極わずかの一流しかいない。超一流以外の人には、「無国籍ジャングル」で戦う以外の別の戦略があって当然だろう。

2014年5月6日火曜日

「僕がグーグルで成長できた理由」 上阪 徹

タイトルと著者を見て、この著者が「僕」(=グーグルの人)かと思ったが違った。この本は、著者がグーグル日本法人幹部の徳生(とくせい)氏へインタビューして構成されている。徳生氏の高校中退後から、その後のアメリカ生活とベンチャー企業での経験、そして、グーグルに入社してからのことが書かれている。ホリエモンの経歴と対比してもおもしろい。

高校3年で中退して渡米し、それからコーネル大を卒業後にスタンフォード大の大学院に進んだという徳生氏の経歴からみて、非凡な能力を感じる。一度だけの日本の大学受験制度に対して、アメリカではチャンスが多いし、総合的に判断されるから渡米を選んだと述べている。また、受験制度だけではなく、勝ち組負け組と固定されるのではなく何度もチャレンジできる文化がアメリカにはあると述べている。(結果がよくない場合であっても、英米ではその過程を評価する"Good try!"の言い回しがあることからもうかがえる。日本語では見当らない気がします。)


グーグルのすごい点はわざわざ言うまでもないだろうが、以下挙げてみる。
1. 会社としての目標が途方もなく大きい。
”ムーン・ショット”や”10x(テン・エックス)”といったキーワードがよく使われる。かつて行われたアポロ計画の月面着陸級の偉業や、今の10倍の価値を目指そうというビジョンを持つ。

2. 経営陣が世界の全社員に向けて毎週ライブミーティングを行っている。そしてライブで従業員の質問に対応する。(5万人規模の会社で、だ。)

3. 物事を徹底して数値で判断する。
その元となるデータから切り出して数値化し判断材料として示す。そしてそれをどう可視化してプレゼンし理解してもらうかも重視される。


リーダーシップに対しては、少ない情報でも決断を下し周囲を説得することができなければいけないと述べている。判断が正しくできるほどの情報を迅速に集められるほうがまれであることは容易に想像できるし、判断材料を十分にそろえようとすれば判断時期が遅れるだろう。
徳生氏がキャリアコーチに言われて心に残った言葉として、
"You don't always know if you are right. But you can work like hell to make it right."
「正しいかどうかは分からなくても、がむしゃらに努力して正しくすることはできる」 
を紹介している。結局は、どんなにすごい人であっても、がむしゃらになることが必要なのだろう。(余談ですが、「結婚相手の選択とその後の生活 」とも共通しているかもしれません。相手の選択がベストかは不確定ですが、ベストにすべく努力することは可能ですから。)



グーグルはすごいが、徳生氏もすごい。ただ、その裏には努力があり、ただ羨むだけでなくその姿勢には見習うべきものがある。

2014年5月3日土曜日

「ゼロ-なにもない自分に小さなイチを足していく」 堀江 貴文

ゼロに何をかけてもゼロのままである。だからゼロの状態にまず必要なのは足し算(=自分の地力を底上げする)で、それは小さなイチでかまわない。小さなイチは自分への信用すなわち自信である。「成功へのショートカット」を求めて、掛け算(=他者の力を借りる)をしようとしても「ゼロ」では何も進まない。
 以上が本書のエッセンスである。

著者の幼少時代から世間で大きく注目されるまでが振り返られている(自伝と呼んでもいいだろう。)また、働き方やお金に対する考え方が書かれているが、「お金から自由になる」などの見方は他の本(たとえば本田健)と同様である。

著者が非凡であると感じられる話は、小学校時代の家庭環境である。家庭でまともにあった唯一の蔵書である百科事典全巻を、始めの「あ」の項から最終巻までをひとつの読み物として通読したと述べている。ネットのなかった当時から網羅的な情報を求めていたと振り返っている。この話が事実だとすれば、幼少から既に凡人でなかったといえるのではないだろうか? (ビル・ゲイツにも「10歳の誕生日を迎えるまでに、家にあった百科事典を最初から最後まで読破」の逸話があるようですが、偶然の一致なのでしょうかね?) 

自分で自分の限界をつくっているのは意識の差であり、物事を「できない理由」から考えるのか、「できる理由」から考えるのかの違いだと述べている。同じことだが、「できない理由を考えずに、どうしたらできるのかを考えよ」というのを耳にしたことがある。できない理由を挙げることは簡単である。しかし、それでは限界をつくるだけである。できるための方策を考えることが重要であることは間違いない(大抵は難しいが。)

成長のためには小さな成功体験の積み重ねが必要で、成功へのステップを以下の3つに分けている。
①挑戦……リスクを選び、最初の一歩を踏み出す勇気
②努力……ゼロからイチへの地道な足し算
③成功……足し算の完了
興味深いのは、挑戦と努力をつなぐのは努力でありそれこそが重要なのだと強調している点だ。
努力のポイントとして、そのことに没頭することを挙げている。すなわち、受験勉強であっても、それを「ゲーム」のようにして没頭できれば、それは大した努力でもないと述べている。自分の経験と照らし合わせると、まったく同じことを感じた経験がある。それは、社会人になって一時テレビゲームをやるようになってからだった。あるソフトでステージをこなしていくためには、それなりにやりこむことが必要であった。で、やりこめばだんだんとうまくなっていき、達成感も味わえた。ふと思ったのが、「ゲーム」が「勉強」に置き換わってもそのプロセスが同じではないかということだった。ゲームがなかなかうまくならなければ嫌いになると同様に、勉強してもさっぱりいい点がとれなければ嫌いになる。

「チャンスがきたらそれに飛びつけ」の部分で「桃太郎」の例を挙げ、流れてきた桃に飛びついたからこそ話が始まったのであり、さらに、その時に躊躇する必要はないと述べている。実際には、「流れてきた桃」に気づくだけの感性が必要であろう。そのためには、常に頭を活性化させておく必要がある。「飛びつく」前に、気づくかどうかが、非凡かどうかの違いではないだろうか。

時間については、それはまさに命そのもので、他人の無駄話に命を削られたくないといっている。ただ、飲み会やゴルフはそれに集中する時間で時間の浪費ではないといっているのは面白い。自分の時間を生きればよいということであろうか。
その一方で睡眠時間を8時間確保し、起きている時間に集中して仕事の質を高めればよいといっている。もっと睡眠時間が短いかと思っていたので意外である。

あれほど精神的な強さを持っているように見受けえられた著者であるが、死に対する恐怖を語っている。仕事に熱中している限りは死について考える必要がないとすると、著者の努力の源泉は死の恐怖を紛らわすためなのかもしれない。

働き方を考える上で参考となる本である。